人生の全ての問題を解決する知恵
          
 「鏡の法則」
第2章(一生に一度の勇気)

第1章の続きです。最初にコチラに入ってしまった方は第1章からお読みください



A子「息子がいじめられていることは、いつもグチっぽく主人に言っています。
   ただ、主人の意見やアドバイスは受け入れられないので、主人にちゃんと相談したことは
   ありません。
   おそらく、私にとって主人は、一番受け入れられないタイプなんだと思います。」

B氏「なるほど。もう一つ根本的な原因がありそうですね。ご主人を受け
   入れるよりも前に、そっちを解決する必要があります。」


A子「根本的な原因ですか?」

B氏「はい、あなたがご主人を受け入れることができない根本的な原因を
   探る必要があります。ちょっと伺いますが、ご自分のお父様に感謝しておられますか?」

A子「えっ?父ですか?そりゃもちろん感謝してますが・・・。」

B氏「お父様に対して『許せない』という思いを、心のどこかに持っておられませんか?」


A子は、この「許せない」という言葉にひっかかった。
たしかに自分は父を許していないかもしれない、そう思った。

親として感謝しているつもりであったが、父のことは好きになれなかった。
結婚して以降も、毎年の盆・正月は、実家に顔を見せに家族で帰っている。
しかし、父とは、ほとんど挨拶ていどの会話しかしていない。
思えば、高校生のころから、父とは他人行儀な付き合いしかしてこなかった。


A子「父を許してないと思います。だけど、父を許すことはできないと思います。」

B氏「そうなんですね。じゃあ、ここまでにしますか?お役に立てなかっ
   たとしたら、申し訳ありません。それとも、何かやってみますか?」

A子「私の悩みの原因が、本当に父や主人に関係しているんでしょうか?」

B氏「それは、やってみたらわかると思いますよ。」

A子「わかりました。何をやったらよいか教えてください。」

B氏「では、今から教えることをまずやってみてください。お父様に対しての
  『許せない』という思いを存分に紙に書きなぐって下さい。

怒りをぶつけるような文書で。『バカヤロー』とか『コノヤロー』とか『大嫌い!』とか、
そんな言葉もOKです。具体的な出来事を思い出したら、その出来事も書いて、
『その時、私はこんな気持ちだったんだ』ってことも書いてみてください。
恨みつらみをすべて文章にして、容赦なく紙にぶつけてください。

気がすむまでやることです。充分に気がすんだら、また電話下さい。
携帯の番号も教えておきます。」


A子にとって、そのことが、息子の問題の解決に役立つのかどうかは疑問だった。
しかし、それを疑って何もしないよりも、可能性があるならやってみようと思った。
A子は、「今の悩みを解決できるなら、どんなことでもしよう」と思っていた。

それに、B氏の話には、根拠はわからないが、不思議な説得力を感じた。
A子は電話を切ると、レポート用紙を持ってきて、父に対する思いを、思
いつくままに書き始めた。


自分が子どものころは、なにかと口やかましい父だった。
夕食が説教の時間になることも多かった。
また、子ども達(A子と兄弟)が自分の思い通りにならないと、すぐに大
声で怒鳴りつける、そんな父だった。
「お父さんは、私の気持ちなんか興味ないんだ!」と、そう思うことも多かった。
お酒を飲んだ時に、仕事のグチを言うところもイヤだった。
また、建設会社で現場監督をしていた父は、砂や土で汚れた仕事着で帰っ
て来て、そのまま食事をすることが多かったが、それもイヤだった。


A子は、父に対しての気持ちを文章にしていった。
気がついたら、父に対して「人でなし!」とか「あんたに親の資格なんか
ない!」とか、かなり過激な言葉もたくさん書いていた。


ある出来事も思い出した。
自分が高校生のころ、クラスメイトの男の子と日曜日にデートをしたことがあった。
その男の子と歩いているところを、たまたま父に目撃され、後で問いただ
されて説教されたことがあった。

両親には、「女の子の友達と遊ぶ」と嘘をついていたのだが、父はその嘘を
許せないようだった。
その時の、父の言葉は今も覚えている。
「親に嘘をつくくらい後ろめたい付き合い方をしているのか!お前は、ろくな女にはならん!」

思い出しているうちに悔し涙が出てきた。
悔しさも文章にした。
「お父さんがそんな性格だから、嘘もつきたくなるんでしょ!自分に原因
があることも分からないの?それに『ろくな女にならない』って、なんて
ひどい言葉なの。私がどのくらい傷ついたか知らないんでしょう!あんたこそ、
ろくな親じゃない!あれから私は、お父さんに心を開かなくなったのよ。自業自得よ!」
書きながら、涙が止まらなかった。


気がついたら、正午を回っていた。
書き始めて2時間近く経っていた。
十数枚のレポート用紙に、怒りを込めた文章が書きなぐってあった。
容赦なく書いたせいか、それとも、思いっ切り泣いたせいか、気持ちがずいぶん軽くなっていた。


A子は、午後1時を回ったところで、B氏に電話をした。

B氏「お父様をゆるす覚悟はできましたか?」

A子「正直なところ、その覚悟まではできていないかもしれません。
   だけど、できることは何でもやってみようと思います。
   ゆるせるものなら、ゆるして楽になりたいとも思います。」

B氏「では、やってみましょう。お父様をゆるすのは、他でもない、あな
   た自身の自由のためにゆるすんです。紙を用意してください。
   そして、上の方に『父に感謝できること』というタイトルを書いてください。
   さて、お父様に対して感謝できるとしたら、どんなことがありますか?」

A子「それは、まず、働いて養ってくれたことですね。父が働いて稼いで
   くれたおかげで、家族も食べていけたわけですし、私も育ててもらえたわけです。」

B氏「それを紙に書き留めて下さい。他にもありますか?」

A子「うーーーん。私が小学生のころ、よく公園に連れていって遊んでくれましたね。」

B氏「それも書き留めておいて下さい。他には?」

A子「それくらいでしょうか。」

B氏「では、別の紙を用意して『父に謝りたいこと』ってタイトルを書いてください。
   さて、お父様に謝りたいことは、何かありますか?」

A子「特に浮かびませんが、あえて言えば、『心の中で反発し続けたこと』でしょうか。
   ただ、心から謝りたいという気持ちにはなれませんが。」

B氏「実感がともなわなくてもOKです。形から入りますから。とりあえず、
   今おっしゃったことを書き留めてください。」

A子「書き留めました。で、形から入るといいますと、何をやればいいの
   ですか?」

B 氏「いいですか、今から勇気の出しどころです。もしかしたら、あなたの人生で
、  一番勇気を使う場面かもしれません。
   私が提案することは、あなたにとって、最も抵抗したくなる行動かもしれません。
   実行するかどうかは自分で判断して下さいね。
   今から、お父様に電話をかけて、感謝の言葉と謝る言葉を伝えるのです。
   実感が湧いてこなかったら、用意した言葉を伝えるだけでもOKです。
   『父に感謝できること』と『父に謝りたいこと』の2つの紙に書き留めたことを、読んで
   伝えるだけでOKです。伝えたら、すぐに電話を切ってもらってかまいません。やってみますか?」

A子「・・・・・。たしかに、今までの人生で使ったことがないくらい、勇気を使わないと
   できませんね。でも、これが私の悩みの解決に役立つなら、
   それだけの勇気を使う価値はあるんだと思います。だけど、難しいですねー」

B氏「やるかやらないかは、ご自分で決めてくださいね。私も、一生に一
   度の勇気を使う価値はあるとおもいますけど。
   それから私は、次の予定がありますので、このあたりで失礼します。
   もし実行されたらご連絡下さい。
   次のステップをお教えします。」


A子にとって救いなのは、「形だけでいい」ということだった。
「謝る」ということについては、気持ちがともなわない。
「悪いのは父親の方だ」という思いがあるから、自分が謝るのは筋違いだと思う。
だけど、書き留めた文章を棒読みするくらいならできそうだ。
それならば、やってみた方がいいに決まっている、と思えた。


A子は「電話をかけよう」という気になってきた。
そして、電話をかけようとしている自分が、不思議だった。
こんなきっかけでもなかったら、A子が父親と電話で話すということは、
一生なかったかもしれない。
結婚して間もないころは、実家に電話をして父が電話に出たときは、すぐさま
「私だけど、お母さんに代わって」と言っていた。
しかし今は、「私だけど」と言った瞬間、父の「おーい、A子から電話だぞ」
と母を呼ぶ声がする。
父も「A子から自分に用事があるはずない」ということわかっているからだ。
しかし、今日は電話で父と話すのだ。


「躊躇していたら、ますます電話をかけにくくなる」と思ったA子は、意
を決して、すぐに電話をかけた。

電話に出たのは、母だった。

A子「私だけど」

母 「あら、A子じゃない。元気にしてる?」

A子「うん、まあね。・・・ねえお母さん、お父さんいる?」

母 「えっ?お父さん?あなたお父さんに用なの?」

A子「う、うん。ちょっとね。」

母 「まあ、それは珍しいことね。ねえ、お父さんに何の用なの?」

A子「えっ?えーと、ちょっと変な話なんだけど説明するとややこしいか
   ら、お父さんに代わってくれる?」

母 「わかった、ちょっと待ってね。」

父が出てくるまでの数秒間、A子の緊張は極度に高まった。


ずっと父のことを嫌ってきた。
父に心を開くことを拒んできた。
その父に、感謝の言葉を伝え、謝るのだ。
ふつうに考えて、できっこない。

しかし、息子のことで悩みぬいたA子にとって、その悩みが深刻であるが
ゆえに、ふつうだったらできそうにない行動の原動力になった。
もしも、その悩みから解放される可能性があるなら、わらにもすがりたい
し、どんなことでもする。
その思いが、A子を今回の行動に向かわせたのだ。


父 「な、なんだ? わしに用事か?」

A子は、自分では何を言っているかわからないくらいパニックしながら話し始めた。

A子「あっ、あのー、私、今まで言わなかったんだけど、言っといたほうがいいかなー
   と思って電話したんだけど、・・・えーと、お父さん、現場の仕事けっこう大変だったと思うのよ。
   お父さんが頑張って働いてくれて、
   私も育ててもらったわけだし。あのー、私が子どものころ、公園とかも連れて行って
   くれたじゃない。なんていうか、『ありがとう』っていうか、
   感謝みたいなこと言ったことないと思うのよ。それで、一度ちゃんと言って
   おきたいなと思って、・・・。それから私、心の中で、けっこうお父さんに反発してたし、
   それも謝りたいなと思ったの。」


ちゃんと「ありがとう」とは言えなかったし、「ごめんなさい」とも言えなかった。
だけど、言うべきことは一応伝えた。
父の言葉を聞いたら、早く電話を切ろう。そう思った。


しかし、父から言葉が帰ってこない。
「何か一言でも言ってくれないと、電話が切れないじゃないの。」そう思った時に、
受話器から聞こえてきたのは、母の声だった。


母 「A子!あなた、お父さんに何を言ったの?」

A子「えっ?」

母 「お父さん、泣き崩れてるじゃないの!何かひどいこと言ったんでしょ!」

受話器から、父が嗚咽する声が聞こえてきた。
A子はショックで呆然とした。


生まれて以来、父が泣くのを一度も見たことはなかった。
父はそんな強い存在だった。
その父がむせび泣く声が聞こえてくる。
自分が形ばかりの感謝を伝えたことで、あの強かった父が嗚咽しているのだ。


A子の目からも涙があふれてきた。


父は私のことをもっともっと愛したかったんだ。
親子らしい会話もたくさんしたかったに違いない。
だけど私はずっと、父の愛を拒否してきた。
父は寂しかったんだ。
仕事でどんなに辛いことがあっても耐えていた強い父が、今、泣き崩れている。
娘に愛が伝わらなかったことが、そんなに辛いことだったんだ。

A子の涙も嗚咽へと変わっていった。


しばらくして、また母の声。
母 「A子!もう落ち着いた?説明してくれる?」

A子「お母さん、もう一度、お父さんに代わってくれる?」

父が電話に出る。
父 「(涙声で)A子、すまなかった。わしは、いい父親じゃなかった。
お前にはいっぱいイヤな思いをさせた。うっ、うっ、うっ、(ふたたび嗚咽)」

A子「お父さん。ごめんなさい。私こそ悪い娘でごめんなさい。そして、
私を育ててくれてありがとう。うっ、うっ、うっ(ふたたび嗚咽)」

少し間をおいて、再び母の声。
母 「また、落ち着いたら説明してね。一旦、電話切るよ。」


A子は、電話を切ってからも、しばらく呆然としていた。

20年以上もの間、父を嫌ってきた。
ずっと父を許せなかった。
自分だけが被害者だと思っていた。
自分は父の一面だけにとらわれて、別の面に目を向けようとはしなかった。
父の愛、父の弱さ、父の不器用さ、・・・これらが見えていなかった。
父はどれだけ辛い思いをしてきたんだろう。
自分は父に、どれだけ辛い思いをさせてきたんだろう。

いろいろな思いが巡った。


「まずは、形から入ればOKです。気持ちは、ついてきますから。」と言っ
たB氏の言葉の意味が、ようやく分かりかけてきた。

「あと1時間くらいで、○○○(息子)が帰ってくるな。」
そう思った時に、電話が鳴った。

出てみるとB氏であった。


第3章(人生の宿題は自分で解決できる)に続きます。 続きを見たい方は下の続きを見るをクリックしてください。

                 
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